予防と健康管理レポート
1.はじめに
4月授業で、職業と鬱病、石綿による悪性中皮腫に関する2つのビデオを見た。
1つめのビデオで、職業現場において、職業的な立場、男女を問わず、鬱病を発症していることを初めて知った。また、うつ病がもとで休職し治療後、支援施設での研修が実施されていたり、企業側の努力もあり、ほぼ休職前と変わらず仕事を続けることができるということを初めて知った。
そして、2つめのビデオで、石綿によって20〜30年後に悪性中皮腫を発症するケースがあるというのは、知っていたが、石綿を扱っていた人たちなど限られた人の問題だと思っていた。しかし、石綿を扱っていた工場の近隣住民にも被害が出ているという事実を初めて知った。
2.キーワード
・depression (鬱)
・occupation (職業)
私は、この2つのビデオを見たうち、特に興味を持った職業とうつ病についてのキーワードを選択した。職業と鬱病に関する問題は、父が精神科の医師であるということから以前から労災認定のことなど、話は聞いていただけに興味を持ったからだ。
Pub-Medで、Depressionとoccupationで検索したところ、おもしろそうで、簡単な内容だったので『Can
the concepts of depression and quality of life be integrated using a time
perspective? Margaret Moore,1,2 Stefan Hofer,1 Hannah
McGee,1 and Lena
Ring1』を選択した。
職業は生命や生活を維持していく上で必要不可欠であり、職業によって受けるストレスによって鬱病を発症する人が多いとのことだったので、この論文を選んだ。
3.論文の内容と概略
鬱とQOLの関係は、あまり知られていない。この論文の目的は、欝とQOL
と時間展望が関係しているde Leval’s 論理モデルをテストすることだった。このモデルは人の過去・現在・未来のQOLに対する認識を変え、鬱の徴候学におけるものも変えるであろうといえるものだった。
鬱と絶望は、より低い水準の現在のQOLに関係している。しかしながら、鬱になっている人は、実際のQOLと望む将来のQOLとは、大きなギャップがあることがわかった。そして、実際の経験と将来の抱負とのギャップが大きければ大きいほど、個々のQOLを下げている。
また、鬱を患っている人は、時間がとてもゆっくり過ぎていき、今が過去から分離されていて、将来への可能性は、失われているか、絶望を持って見られている。そして、鬱の経過途中の人は、物事がより良く受け入れられていた過去に戻りたいと願っている。
つまり、より低いQOLは、鬱の前兆になっているかもしれない。言い換えれば、鬱はQOLの構成要素といえる。
実験は、治療が加えられる3ヶ月前と治療が加えられて3ヵ月後の精神病と診断された24人を対象に行われた。鬱とQOLの関係について2つの方法で調査した。(3ヵ月間の間に6人が脱落したので、18人の結果を見た。)
(1)好みの比較についてのギャップを調べる
患者達は今どんな立場で居るのか、そして、どうありたいのかを問うことで分かった。
@生活で最も重要なものを5つの領域(役割)を挙げてもらう
A患者達は自分の現在の立場、あるいは各役割での水準を評価する
B患者達の全面的なQOLの判断への各役割の相対的重要性を決める
(2)時間的比較についてのギャップを調べる
時間展望は、過去・現在・未来の実際と希望的観点のQOLについての質問をし、患者達は、現在の自分自身を過去・将来と比較してみてどうなのかを見てみることで、わかる。
被験者に以下の質問をした。
過去;
@Where were
you before you got depressed?(実際の過去)
AWhere would
you have liked to have been?( 希望的観点の過去)
現在;
@Where are
you now? (実際の現在)
AWhere would
you like to be? (希望的観点の現在)
将来;
@Where do
you expect to be in a year’s time? (実際の将来)
AWhere would
you like to be in a year’s time? (希望的観点の将来)
・(1)(2)の結果
QOL全体として実際の過去の水準は、実験開始から、その3ヵ月後まで変わらなかった。しかし、向上心がある過去のQOLは、実験開始時と3ヵ月後では、実際の現在の水準より明確に上がった。また、実際の将来のQOLは3ヵ月の間大きくは変わらなかった。しかし、実際の将来のQOLは、実験開始時と3ヵ月後では、希望的観点の将来のQOLより明確に低下した。向上心がある将来のQOLは、絶えず高いままだった。
しかし、向上心がある将来のQOLは、絶えず高いままだった。
この時間的展望のギャップの中で、最も大きなギャップは、実験開始時の実際の現在のQOLと希望的観点の現在のQOLだった。この大きなギャップは、3ヵ月後には、明らかに小さくなっていた。他のギャップは、変わらなかった。
4.考察
時間が経ち、鬱と絶望の変化は、複数の退行のうち変わりやすいものとして、受け入れられる。鬱の変化は、実際の現在のQOLと向上心がある現在のQOLのギャップを変えることに貢献する。また、絶望の変化は、実際の将来のQOLと向上心がある将来のQOLのギャップを減らす明確に作用している要因である。
また、通常、欝の人は、満足いく状態で、社会的機能を果たしていて、生活水準が良好である自分を、観察者や回復した後の自分自身より悪いと思う傾向がある。
この患者達の症状は、治療後明らかに改善されていた。鬱の症状の改善と並行して実際の現在のQOLは、改善されたが、実際の過去の水準は、治療前3ヵ月から、治療後3ヵ月まで変わらなかった。つまり、どんな成果のある治療でも個人の過去の心像を変えることは、出来ない。付け加えて、実際の将来のQOLは3ヵ月の間大きくは変わらなかった。すなわち、過去と希望的観点の将来は、患者が復帰しても変わらなかった。
この実験で分かったこと
T.現在望む立場とのギャップが大きければ、大きいほど鬱の症状は大きかった。
U.向上心は欝に作用しない。というのも病院の中から治療後3ヵ月までの間、過去・現在・未来の向上心は変わらなかったからだ。
これらの発見は、現在の望まれるギャップを小さくすることが、うつ病患者の治療方針の主要な目的であるといえる。そして、治療は、できるだけ早く、鬱を患った人を活動的に仕事が出来るようにしてあげることも、もうひとつの目的であるともいえる。
*語句*
QOL;クオリティ・オブ・ライフ(Quality
of Life,生活の質,略語:QOL)には、広義のQOLと狭義のQOLがある。広義のQOLは人生の質とも訳され、この場合のQOLの向上とは患者のみならず市民の健康増進を図る事を意味する。狭義のQOLは生活の質とも訳され、この場合のQOLの向上とは患者の日常生活をどれだけ苦痛の少ないものにするかという意味で用いられる。
鬱;人によって症状は様々だが、自分ではコントロール出来ないような体の症状がでる。にこやかに笑顔を浮かべながら、穏やかにきちんと話をすることが多い。そのため、本人がそれほど苦しんでいることは気が付かないことがある。性格の弱さや家族が原因ではない。たとえて言えば「脳の風邪」のようなもの。脳内の伝達物質の異常により幸福、満足感、安心感等が得られなかったり、自律神経が正常に働かない状態である。脳には約150億の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)を介して脳内の情報が伝達されているが、鬱病では、ストレスによって一時的に神経伝達物質がアンバランスを起こした状態と考えられている。始めは身体症状(身体がだるい、不眠、食欲、性欲に異常を来す)と精神症状(やる気がない、面倒、楽しめない、集中力がない)が主な症状だ。鬱病になると、とにかく自分を責めてしまい、また病気と認めない事が多いため、症状が長引いたり、悪化する事が多いので治療法として、まず病気に対する説明を理解する。
その中でももっとも重要なのが「十分な休養」である。鬱状態にある時は周りに元気づけられたり無理に旅行に行くよりも、自分で見つけた心と体の休養を毎日一歩ずつ進んでいくのが一番である。
*鬱病の基礎知識*
普通の落ち込みとどう違うのか
普通の落ち込みは憂鬱感(抑鬱感)だけで数日で終わるが、鬱病では抑鬱感、不安感・イライラ感(不安・焦燥)、おっくう感(抑制症状)があり、長く続くのが特徴。はっきりとした原因があるもの(外因性鬱病)と、軽症鬱病などの原因がはっきりしないもの(内因性鬱病)がある。また、症状の出方によって単極型(鬱期と平常期の繰り返し)・双極型(鬱と躁の繰り返し)などがある。
鬱病の特徴
精神症状
1:心が塞ぐ。気分が落ち込む。
2:日頃興味や喜びを感じていたものに気持ちが向かない。
3:行動するのも考えるのもおっくうで、疲れを感じやすい。
4:集中力や注意力の低下。
5:自信喪失。
6:自責の念や無価値感。
7:将来を悲観的にとらえる。
8:自傷行為、自殺を考える。
身体症状
睡眠:寝付きが悪い。眠りが浅い。早朝に目覚める。
食欲:食欲がない。好物を食べても美味しく感じない。
体重:体重が減る。
疲労感:体が重い。気だるい。すぐに横になってしまう。
日内変動:症状は午前中が最悪。午後次第に軽くなり、夜が一番調子がいい。
その他:頭が痛い、重い。息苦しい。動悸。めまい。口が渇く。吐き気がする。便秘。寝汗をかく。性欲がない。
このような症状から、内科を受診する人が多い。
病因
遺伝・体質的な背景:高血圧や癌などと同様、かかりやすい体質は遺伝するが、発病に際しては外的要因(ストレス)からの影響が大きいと考えられる。
心理・社会的な要因:人生の重大な出来事(死別、離婚、退職、重い病気や怪我など)や、ストレスとなる日常の出来事(昇進、同居人の増減、転居、生活パターンの変化、出産など)が引き金になり得るが、心理・社会的な要因が認められないケースも多い(軽症鬱病など)。
脳・神経機能の関与:神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン)の調節障害が関与しているという節が有力視されている。
病前性格
1:きちょうめん、勤勉、良心的、周囲に気遣いする。
2:悲観的、細かいことが気になる。
3:自己愛が強く、精神的に未熟である。
治療
薬物治療が中心で、精神療法も併せて行われる。
薬物療法:抗うつ剤、精神安定剤、睡眠薬など。
心理療法:認知行動療法、対人関係療法、問題解決型心理療法など。
※薬物療法で通常は3ヶ月から半年で完治すると言われているが、自分の判断で薬を飲むのをやめるのは厳禁。症状がぶり返し、回復まで時間がかかることになる。
5.まとめ
鬱は、人があまり落胆していないときは、実際/希望的観点のギャップに大いに関係している。しかし、絶望は、一貫して優先的比較将来ギャップと、および現在の実際/向上心のあるQOLのギャップを備えた基線でのみ関連していた。実際の過去のQOLと向上心のある過去のQOLとのギャップは、鬱や絶望でも説明できない。鬱または、絶望における変化は、現在のQOLと将来のQOLの優先的比較ギャップを減らすことが重要である。
鬱における変化は、現在のギャップの大きさを減らすことが重要である。
絶望における変化は、将来のギャップの大きさを減らすことに大きく関係している。
私は、この論文読んで、職業によって受ける絶望や落胆が、自分の思い描く将来のQOLと現実のQOLのギャップに陥り、鬱の症状を悪化させると思った。
そして、どんなことが治療の目的となり、治療後の患者の意識の変わり様をみることができた。
将来、職業によってなるかもしれない鬱病のことを調べれてよかったと思う。
そして、患者さんを診ることがあった場合、このことを思い出せたらいいなと思う。